満月の夜は人が出歩く?
差は見られない
「満月の夜は人が活発になり、出歩く」――そんな言い伝えがあります。それを、東京の人流データで検証します。指標はGoogleの人流統計(COVID-19 Community Mobility Reports)の東京・平常比。電車の混み具合に最も近い「駅・公共交通」、街の人出を映す「小売・娯楽」、そして逆向きの対照として「自宅滞在」を見ます。値は0をまたぐ平常比なので、同じ曜日の局所平均からのズレ(ポイント)で比べます。
駅・公共交通(=電車の混み具合の代理)
- 平均(全期間)
- −30.8%(平常比)
- 満月の日 (±24時間)
- 同曜日比−0.6 ポイント
- 新月の日 (±24時間)
- 同曜日比+0.4 ポイント
- 満月の日の判定
- 差は見られない
小売・娯楽(街の人出)
- 平均(全期間)
- −25.4%(平常比)
- 満月の日 (±24時間)
- 同曜日比+0.2 ポイント
- 新月の日 (±24時間)
- 同曜日比+0.7 ポイント
- 満月の日の判定
- 差は見られない
自宅滞在(逆向きの対照。出歩けば下がるはず)
- 平均(全期間)
- +10.9%(平常比)
- 満月の日 (±24時間)
- 同曜日比+0.3 ポイント
- 新月の日 (±24時間)
- 同曜日比−0.1 ポイント
- 満月の日の判定
- 差は見られない
対象データ: 2020年2月15日〜2022年10月15日・Google人流統計(東京)・974 日分
第2幕: 人の動きを大きく動かしていたもの
今回のデータで、はっきり見えた差はこちらです。
−78%
人流をはっきり動かしたのは、社会の出来事でした。最も落ち込んだ2020年5月6日、東京の駅利用は平常を78%も下回りました。最初の緊急事態宣言が、どの夜よりも深く人を家に留めたのです。
コロナ禍の東京は、駅利用が平常より平均31%も沈んでいました。社会の出来事が動かす幅は数十ポイント――満月の日との差は0.6ポイントにも満たず、桁がまるで違います。
少なくとも今回のデータでは、暮らしの予定と社会の出来事のほうが、ずっと大きく人の出足を動かしていました。コロナ禍の約2年半という短い期間のデータなので、月との関わりはまだ探す余地があります。
「満月の夜は人が騒ぐ」
満月の夜は人が落ち着かず、外へ出たがる――救急や警察、接客業の現場でよく語られる言い伝えです。月の引力が人の体や気分を揺らし、街に繰り出させる、という素朴なイメージ。もしそれが本当なら、満月の夜には人の出足=駅の利用や街の人出が増えているはずです。
それを、東京の人流データで確かめます。電車の混み具合をそのまま長期で記録した公開データは存在しませんが、その最も近い代理として、Googleが公開した人流統計の「駅・公共交通」の利用量が使えます。
この判定はどう計算しているか
- データはGoogleの「COVID-19 コミュニティ モビリティ レポート」の東京(2020年2月〜2022年10月、公開終了済みの凍結データ)。各日の値は、2020年初頭の曜日ごとの中央値を基準とした「平常比(%)」です。指標は駅・公共交通(電車の代理)、小売・娯楽(街の人出)、そして逆向きの対照として自宅滞在――人が出歩けば下がるはずの量です
- 人流は曜日(平日と週末)とコロナ禍の急変で激しく動きます。そこで「同じ曜日の前後3週間の平均」を期待値とし、そこからのズレ(ポイント)を満月・新月の日について集計します。これで曜日リズムと社会の急変トレンドを同時に差し引いています
- 日本時間の正午の月齢で満月・新月の日(瞬間±24時間)を判定します
詳しい判定基準は方法論をご覧ください。
データを読むときの注意
このデータは約2年半・コロナ禍に限られ、満月は約33回分しかありません。22年・数千日の他トピックに比べてサンプルが小さく、信頼区間は広めです。また人流が社会の出来事で乱高下した特殊な時期でもあります。そのため、満月の日の小さな動きは、社会の大きな揺れの中に隠れている可能性があります。
人の動きを大きく動かしていたもの
今回のデータで人の動きをはっきり動かしていたのは、平日と週末のリズムと社会の出来事でした。駅の利用は週末に大きく落ち、緊急事態宣言ではさらに深く沈みました。この大きな振れ幅の中で、満月の日の動きはまだ見分けられていません。
まだ見えていないこと
今回の結果は「月は関係ない」という意味ではありません。今の調べ方では、次のようなことが見えていません。
- 夜の人出:言い伝えは「満月の夜」の話です。今のデータは1日単位なので、夜の数時間だけの動きは見えません
- ふだんの時期:使えたのはコロナ禍の約2年半だけです。人が自由に出歩ける時期には、違う形が見えるかもしれません
- 場所:東京全体の平均なので、繁華街だけの動きは薄まります
次に調べたいこと
- コロナ禍以外の時期の人流データを探す
- 駅の時間帯別の乗降データで、夜だけを取り出して比べる
「満月の夜は人が騒ぐ」という現場の感覚には、まだ数字にできていない何かがあるのかもしれません。いつか、それをデータで見つけ出したいと思っています。
データ出典
- Google COVID-19 Community Mobility Reports(東京・日次の平常比。出典: Google LLC)
- 月齢・朔望の瞬間は Jean Meeus "Astronomical Algorithms" のアルゴリズムによる自前計算(UTC基準)
最終更新: 2026年10月7日 00:48 (UTC)(毎日自動更新)